2009年01月11日

8 再び長屋のビニール小屋の中


 

「これぼく?」
「そう。あなた以外に、あのときほかに、だれかいた?」
「え、でも、こんなふうに見えた?」
「そう、あなた以外だれもいなかったんだから、そうなんじゃない。それともぜんぜん似ていない?」
 彼女はぼくをからかうように言った。
 細い線できちっと輪郭をデッサンしてあって、巧みに立体に明暗を描いているので、かなり写実的に見える。石膏で木炭デッサンの基礎をかなり勉強しているのだろう。木炭を指でこすった跡が無く、シャドーも綺麗に描き込んであるので、人体の肌が白く見える。が、自分で思っているよりも身体全体が細長く引き伸ばされたように見える。それに、あんなに勃起していたペニスはどんな風に描かれているのか興味があったが、描かれた全裸の男の性器の辺りは黒い直方体で省略されていて、男根は描かれていなかった。
「あなたの身体、ダビデ像に似てた。でも・・もっとスマートだったかな・・」
「そう? ダビデ像に? ポーズだけじゃなくて?」
「うん、腰の辺りから太ももにかけてなんかそっくりだと思った。ううん、ダビデ像をそんなによく見てたわけじゃないけど・・でも、ダビデよりも痩せてるわよね。あなた」
「えっ、ぼく?」
 自分がそんなに見つめられていたことに改めて気付いて、驚く。
「これでも太ったんだよ。田口さんが毎晩ここに食事を運んできてくれるから・・それ食べて」
「そう。なんか、飼われてる犬みたい」
 聖子は小さな声で独言のように言った。それから慌てて付け加えるように言った。「ねえ。それまでは何食べて生きてたの?」
「あんまり、なにも・・。だから、ガリガリに痩せてたんだ」
「そう」と暗い顔をして肯くと「でも、よかったわね。田口さんに助けてもらって・・」と自分で納得するように言った。
「う、うん。だいぶ、直ったんだ。傷も・・」
 聖子は急に赤くなって下を向いた。
「あっ。そういえばあなたの身体のアザ、どうしたの?」
「え? 別になんでもないよ」
「そう。肌が白いから目に付いたの・・ゴメンね・・あれって傷、よね?」
「そう。傷」
 お互いに黙り込んで下を向いた。
聖子はぼくの目を覗き込んだ。ぼくは彼女のデッサンを見た。
 
 
 
 
 
posted by hoshius at 11:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 狂犬革命 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。