2009年01月05日

14 ジーザスのマザーじゃないマリア



 
 マリアと出会ったのは、ミルバレーのコブラの家だった。ぼくは、カリフォルニアのシャスタ山麓に広がる広大なナショナル・フォーレストの山中にあったコミューンにいた。その山から街に降りてきて初めて泊まったのがコブラの家だった。コブラはミュージシャンで、ミルバレーの大きな自宅には、色々な国のミュージシャンやらカリフォルニアに遊びにきた人達やらが大勢泊り込んでいた。そこで最初にぼくが見た女が、マリアだった。
 キラキラした大きな目の彼女と初めて目と目が合ったとき、彼女はぼくに言った。
「どこから来たの?」
「オン・ザ・マウンテン」
 ぼくが答えた英語を聞いて彼女は声を上げて笑った。
「オン・ザ・マウンテン?」
 明るくケラケラ笑うので、ぼくはもうそれ以上何も言うことができなかった。
「私はパナマから来たの」
「え? パナマ」
「そう」
「名前は?」
「マリア」
「え? マリア?」
「そう。私の名前はマリアよ」
 ぼくはバカみたいにこう言った。
「ジーザスのマザーのマリア?」
「そう。私はジーザスのお母さんじゃないけど、マリアよ」
 ぼくは一瞬にして、もう既に、すっかり恋に堕ちていた。激しく心臓が鼓動し、アドレナリンが全身に巡り、戦闘状態になっていた。
 真っ赤になり、胸苦しくていたたまれず、急に立ち上がって走りだした。
 コブラの家を出て、全速力で闇雲に走った。なぜ走っているのかもわからなかった。
 辺りは大小の丘が連なる牧歌的な風景が続いていた。向こうに大きな山が霞んで見える。その山まで駆け上がるつもりだった。
 丘の斜面を駆け上がると、心臓が今にも破裂しそうになっていた。見ると、そこは牧場で、馬が数頭放牧されていた。ぼくはいつのまにか牧場の柵の中にいたのだ。ぬかるんだ土に足が埋まっていた。
 向こうから牧場主だろうか、大きな男が一人、怪訝そうな顔をして近づいて来た。ぼくは危険を感じて素早く逃げ出した。ぬかるんだ土に足をとられながら、丘の斜面を転げ落ちるように駆け下り、普通の道まで下りた。
 何でこんな所を駆け上がったのだろう。降りてきた丘の斜面を見上げて思った。
 マリアのことを思い出すだけで、また胸が張り裂けそうだった。
 彼女がいるコブラの家には、もう二度と近づくことができず、夕暮れまで街をうろついて回った。
 すっかり日が落ちて、街の外れの大通りまで来ていたぼくは、そこにあったコンビニで、牛乳とビーフジャーキーを買った。寒くなり凍えそうだったので、ビーフジャーキーをかじりながら暖かいコブラの家に戻った。
 腹が空いていた。
 キッチンで買ってきた牛乳を飲んでいると、居間でコブラがエレキ・ギターを弾く音が聞こえてきた。その音を聴いていると、ぼくは思わずうきうきしてきて、飲んでいた牛乳を冷蔵庫にしまい、急いで居間に行った。
 いつの間にか寝泊りしているミュージシャンが集まっていた。エレキ・ギターやベース、キーボード、アコースティック・ギターにタブラやシタール、タンバリンにドラムにコンガ。ありとあらゆる楽器が部屋に置いてあって、みんなそれぞれ好きな楽器を持って即興演奏を始めた。ぼくもそこにあったフォークギターを持って、知っているコードをその場の音に合わせて弾いた。
 演奏がだんだんと盛り上がってきて、歌ったり踊ったりのパーティーになった。
 マリアも自分の部屋から出てきた。でも、彼女は楽器は演奏せず、居間の片隅に座っていた。立てたひざを真っ赤なワンピースのスカートの中に隠したまま、その上に顔を斜めに乗せて、黙ってぼくを見ていた。
 パーティーが終わると、ぼくはキッチンの冷蔵庫からガロン入りの飲みかけの牛乳を取り出して、一気に飲んだ。

 コブラの家の大きな中庭には、直径が四、五メートルもある木製のバスタブが置いてあった。夜になると常時お湯が沸いていて、いつでも誰でも好きなときに、野外でバスタブに浸かることができた。
 中庭は芝生で、様々な植物が生えていた。夜になると満天に星が輝き、まるでメンドシノの山の中にいるようだとぼくは思った。
 屋外には明かりはなく、ガラス戸から漏れるコブラの寝室や、居間に続く廊下の明かりだけが、バスタブのお湯に映っていた。
 大きな野外風呂にぼくがひとりで浸かっていると、ガラス戸を透かして廊下の隅に、マリアがひとりで座っているのが見えた。
 何をしているわけでもない。ただ廊下に黙って座って瞑想でもしているのだろう。
 ぼくはバスタブに浸かりながら、彼女をじっと見つめていた。
 彼女とは「オン・ザ・マウンテン」以外、何も話していない。何か言おうとしても、気の利いた英語の台詞なんて思いつかない。それよりも、あまりにも恋が激し過ぎて、言葉を口に出すことすらできないような気がした。ただ獣のように叫ぶか、犬のように飛びついて抱きしめてしまうだろう。でもそんなことをしたら狂っているとしか思われないだろう。
 実際、ぼくは狂っていたのかもしれない。
 見渡す限り人口の物は一切視界に入らない広大な森林。アメリカ合衆国のナショナル・フォーレストの山中。ぼくは既にそこで、獣になっていたのだ。
 山の中には犬が二匹いた。一匹は大きな茶色いセントバーナードの雄犬リロイ。大人しくて賢い老犬だ。もう一匹は、雑種の蜂蜜色の雌犬ハニー。若いハニーは人に噛み付く狂犬だと言われていた。
 狂犬のハニーを見ても、誰も相手にする者はいなかった。
 彼女はどうやって山の中で暮らしていたのだろう。リロイは人間に可愛がられ、食べ残しなどをもらったり、モンゴル式のヤートの中に入れてもらって、一緒に食事までさせてもらっていた。ハニーは人間に嫌われていて、無視されていたから、ひとりで野生動物のように山を駆け回り、森のリスや小動物を獲って食べていたのかもしれない。
 ただ、山の中でぼくだけは、彼女と遊んだ。狂犬の雌犬ハニーは、ぼくを見るといつも笑ったような顔をして、歯をむき出してまとわりついてきた。ぼくは犬のように腕をばたつかせて彼女をからかった。するとハニーは狂ったように何度も後ろ足で高くジャンプした。ぼくは可笑しくなって、自分も犬の真似をして何度もジャンプして見せた。すると、バカにされていることも知らずに、ハニーは喜んでぼくにじゃれ付いてきた。何度も払いのけたが、彼女は喜んだ顔をしたまま堪忍しない。遊びをあきらめない無邪気さは子供以上に純心だった。ぼくは笑い転げながら、しまいにはハニーを羽交い絞めにして地面に押し倒した。雌犬は必死になってグルグルと唸ってもがき、苦しんで嫌がる表情がまた可笑しくて、ぼくは息が出来ないくらい笑い転げた。ハニーは興奮してぼくに噛み付き、離してやるとまたじゃれ付いてきた。
 獣同士の遊びはいつまでも続き、二人は誰もいない山の地面を転げ回った。
 山で彼女に出会うと、決まってこの遊びを繰り返すうち、いつの間にかぼくと狂犬のハニーは、大の仲良しになっていた。
 ある昼間、遠くの山の斜面にリロイがいるのが見えた。遠すぎて、声も届かない距離。老犬のセントバーナードは豆粒ほどにしか見えない。 ぼくはリロイに向かって心の中で叫んだ。
「こっちに来い! こっちに向かって走って来い!」
 すると、ぼくに気付いたリロイはじっとぼくの目を見つめて、やがて駆けだした。山の斜面を渡り、一目散にぼくのもとに走って来た。
「いい子だな、リロイ。ぼくのテレパシーが通じたんだな。おまえは本当に利口な犬だ」
 ぼくは、リロイを撫で、抱きしめてやった。リロイは喜んでぼくの顔をベロベロ舐めた。
 すると、そこに、ハニーがどこからともなくやって来て、リロイに激しく吠えかかった。野獣の目つきでリロイを威嚇し、突然、二匹は激しいケンカを始めた。
「やめろ! やめろ! 二人とも! やめるんだ!」
 ぼくは必死になって二匹をなだめた。ところが、どんなに叫んでもなだめても二匹はケンカをやめようとしない。しまいには、ハニーに吠えられたリロイは本気になって怒り、野獣の本性をむき出しにしてハニーに吠えかかった。普段はおとなしくて賢いリロイが、本気で怒ってハニーを威嚇した。そんな姿は見たことがなかった。それでもハニーはまったくひるまない。それどころか、大きな老犬のリロイに噛み付いた。
「ハニー! 悪いぞ、お前! なんだってリロイに噛み付くんだ!バカヤロウ! おい、けだもの! 聞いてるのか! やめろって言ってるだろ!」
 どんなに叫んでも、人間の言葉などまったく意に介さず、二匹は激しく憎しみ合って唸り合い、しまいには、噛み付き合いながら狂ったようにグルグルと宙に舞った。
「わかった。わかった。二人ともやめるんだ! ハニーやめろ! わかったから。お願いだ! お前を愛してるよ。ハニー。リロイよりもだ! そう言えば気が済むんだろ! ハニー! だから、もう止めてくれ! もう、そんなに、狂犬のように吠えないでくれ!」
 ぼくは山のことを思い出しながら、廊下に座っているマリアを見つめていた。
 彼女にもテレパシーが通じるだろうか。
 まさか、山の中の犬じゃあるまいし、彼女を呼んでも犬のように来はしないだろう。でも、ぼくは、ハニーよりも、今は彼女のことが好きだった。狂犬のように彼女を欲していた。
 声も届かない距離から、ぼくは真剣になってマリアに向かってテレパシーを送った。
「来い! 来い! マリア。 こっちに来い! このバスタブの中に入って来てくれ! お願いだ!」
 すると、ガラス越しの彼女は、何を思ったのか、いとも簡単にするっと着ていた真っ赤なワンピースを脱いだのだった。
 ぼくは自分の目を疑った。彼女が今、何をしているのか分からなかった。が、明かりが漏れる廊下のガラス越しに、マリアの真っ白な裸体が見えた。
 彼女はガラス戸を空けると、バスタブに向かって歩いて来た。
 きっとぼくが入っていることに気付いていないのかもしれない。
 ぼくは、どうしたらいいのかわからないまま、暖かいお湯に浸かっていた。
 夜だったのと、バスタブの湯気で、明るい向こうのガラス戸から暗闇のこちら側に歩いて来ると、彼女の姿は一瞬、ぼくの目から見えなくなった。
 闇に隠れるように裸のマリアは歩いて来た。そして、突然、姿を現したとき、彼女はバスタブの縁に置いてある台の上に登っていた。
 そのとき初めてぼくは、彼女の裸体をはっきりと視た。小柄だが、白くて丸い胸だけが大きく張り出していて、細い脚が長く伸び、台の上でつま先立っていた。筋肉質のお腹はウエストで細くくびれていた。
 マリアは、ぼくの目を見た。ぼくは無言で彼女の目を見つめ返した。 マリアの表情が真剣になった。次の瞬間、彼女は、躊躇することなく、バスタブの縁を跨いだ。そのとき、ぼくは、彼女の股を見つめた。 ちじれた銀色の陰毛が薄く、陰部が丸出しになって見えた。
 マリアは湯に浸かるとすぐに、恥じることなく、ぼくの手に触れた。
 ぼくにとっては青天の霹靂だった。電流が体中に走り、興奮を抑え切れずに喘いだ。思わずお湯の中に潜って、バスタブの縁を蹴り、向こうの端まで泳いで行った。
 マリアは、ぼくが向こう側に浮上したのを見ると、声を上げて笑った。ぼくのペニスが立っているのが見えたからだ。
 ぼくはいたたまれなくなり、バスタブの縁を跨いで外に出ると、木立の生えている暗がりに隠れた。
 熱くなった体から湯気が上がっていた。
 勃起したペニスをつまんで、その先から湯気の出る小便をした。
 ペニスがビンビンと揺れていた。
 そのまま冷たい芝生の上に寝そべって夜空を見上げた。
 満天の星が無言で輝いていた。
 山の中で見た星と同じだ。
 すると、そこに、マリアがやって来た。
 全裸のまま、そこにしゃがみこむと、脚を開いてオシッコをし始めた。
 ぼくは彼女のしていることが信じられなかった。
 なんだって、こんなに綺麗な子が、男の前にしゃがみ込んでオシッコなんかしているんだろう。
 彼女の顔は見えなかった。下を向いていたのだ。濡れた金髪が縮れていた。
 ぼくは立ち上がった。
 マリアの大理石のように真っ白な背中は、滴り落ちる露に濡れて光り、無防備だった。
 彼女はしゃがんだまま、自分の股間を見つめていた。
 ぼくは冷淡にも彼女を見過ごして、冷たくなった体を温めるため、またバスタブに戻った。
 どうすればいいんだろう。ぼくは湯に浸かりながら、なにも考えられなかった。
 しばらくすると、マリアもまたバスタブに入って来た。
 ぼくはマリアに近付いた。そして、彼女の体に触れた。手で触ったのではない。体と体をそっと接触させたのだ。
 気持ちよかった。
 マリアは、ぼくにキスをした。
 マリアの目は笑っていた。
 立つと腰ほどの高さの湯から出たぼくの勃起したペニスを、マリアは触った。
 暖かく重たく上下に揺れていた。それを手に取ると自分の熱くなたヴァギナにこすりつけた。
 谷間にこすりつけられるペニスは、お湯よりも熱いヴァギナの熱を感じた。

 ペニスをしごいている後輩の顔を見た。
 目をつぶって必死にぼくの性器をしごいて、早く射精させようとしている。
 でも、きつく握られたぼくのペニスは麻痺したように何も感じない。
 マリアは今どこにいるのだろう。
 世界中のどこかにいることだけは絶対確かなことなのに、彼女が今いる場所が世界のいったいどこなのか、ぼくには分からない。だから、地球上を隈なく探し回っても、彼女を見つけ出そう、そのために、また旅に出ようとぼくは心に決めたのだ。
 別れるとき、彼女は朝鮮(コリア)にペーパーマリッジしに行くと言っていた。そうすれば大金がもらえるのだと言って、マリッジしたいからじゃないと、マリアはぼくに強調した。
 彼女は、グラビアのヌードモデルをして金を稼ぎながら世界中を放浪していたのだ。
 ぼくは、そのことを知ったとき、激しい嫉妬を覚えた。きっと彼女のヌードを掲載した雑誌はよく売れるだろうと思った。どんなポーズでカメラマンの前に立つのだろう。カメラマンは喜ぶに違いない。どこまで彼女は自分の裸体を見せるのだろう。きっとアメリカだから、何もかもさらけ出すに違いない。そう思うと、ぼくはどうしようもなく嫉妬し、落ち込んだ。でも、だからこそ余計に、彼女に恋焦がれたのかもしれない。
 なんで彼女はヌードモデルなんてしているのだろう。自分の裸を見られることが快感なのだろうか。それとも金のためにしかたなくそうしているのだろうか。それとも、誰かに無理やりやらされているのだろうか。
 ヌードモデルが嫌になったから、ペーパーマリッジをしようと思ったのだろうか。それとも、誰かから逃げるためにそんなことをするつもりなのだろうか。それとも誰かにだまされているのだろうか。
 ぼくには、彼女の気持ちが解らなかった。
 行きずりの出会いで、すぐに別れた。引き返せば彼女に再び会えたかもしれない、もっと話ができたかもしれない。でも、ぼくは二度と再び彼女に会うことはなかった。
「マリア、マリア、マリア!」
 ぼくは声帯を振動させずに、息だけで何度も叫んでいた。
 カリフォルニアで激しく恋をした彼女の名を。何度も何度も。今でも忘れられない彼女の名を。今でも恋している白人のグラビアのヌードモデルの女の子の名を。世界中を放浪してもまた見つけ出そうと思っている女の名を。
 ペニスを必死でしごいている後輩は、それをぼくのあえぎ声だと思ったのか、自分も息を荒げて赤面しながら、ぼくの口に吸い付いてきた。
 ぼくは後輩の股に手を入れて、きつくそこを覆い隠しているパンティの淵から、陰毛に覆われた股の間に指をしのび込ませた。
 じっとり汗をかいた股の間から、ザラザラと陰毛を伝って、ベトベトになった密壺に指を滑らせ、窮屈な穴の中に指を入れようとした。しかし、後輩は米神から汗を流しながら必死になって抵抗し、ぼくの腕を掴んで引き離そうとした。
 めぐみは体をくねらせ、腰を動かし、ぼくの指を中に入れまいとして股の筋肉を締めつけた。
 コブラの家を出る前日、ぼくは夜、マリアのいる部屋に入ろうとした。すると、中に男がいるのに気付いた。ぼくと同じアジア人だ。ラフな格好をしていない、きちんとしたスーツを着た東洋人が何日か前、数人でコブラの家に来たのを知っている。朝鮮(コリア)から来たと聞いていた。でもそのうちの一人が、マリアの部屋の中に、彼女と二人でいるのを見た。ドアの隙間からぼくは、彼女が全裸で、後ろから犯されているのを視た。
 ジーンズのボタンを外すと、ひざの下までずり落ちてきて、さっきモデルになっていたのと同じように、ぼくの腰は丸出しになった。それと同じように、後輩のインディゴのミニスカートをまくり上げて、パンティを尻から外し、ひざの下まで降ろして、彼女の腰も裸にしてやった。
抵抗していた後輩の手は、無理やりぼくのペニスを握り直されると、今度は自分から、指先でヌルヌルの亀頭を愛撫してきた。そして、自分の股の間の粘膜も、その奥に既に挿入されてしまった指先で愛撫されて、今度は堪忍したように従順に為されるままにされている彼女の性器の中は濡れて、じりじりと熱くなった。
 麻酔をかけられた粘膜が痛みを快く感じるように、指を挿入された粘膜の快感が性的限界に達したのか、それとも、急にこんな所で快感と同時に精神的ショックをも味わわされたことへの復讐なのか。後輩は、暑苦しい男子便所の壁に押しつけられたまま、着ていたレモンイエローのTシャツもすっかりはだけた白い胸をドクドク鼓動させて、夢中で中学のときの先輩のペニスの粘膜を、細い指先で引掻き始めた。
 亀頭の先は濡れてナメコのようにヌルヌルして、後輩の指先がそこを何度もしつこく愛撫してくる口先の小さな割れ目の中に、まるでユリの花びらの先端のように細く尖った爪先が何度も引っかかる痛みを感じた。それが無力な後輩のできる限り最大の復讐なのだと思いながら、さらにぼくはペニスを突き出してやった。
 やがて、女子高生は我慢できない様子で爪先を上げて挿入されている指を引き抜こうとした。それでも、逆に余計にまさぐられ、いじられるので、終いにはその感覚に耐えらないといった表情で目をつぶったまま、感じている触覚に抵抗して、閉じ込められた窮屈なパーティションの中で身をよじらせた。
 マリアは、後ろ向きに四つん這いになって男に金髪を引っ張られながら、乱暴に犯されていた。彼女は苦痛を感じているに違いないと思った。低い声で呻く彼女を見ても、ぼくには何もできなかった。
 下半身を露出させられ壁に押しつけられた後輩の震えるひざが、ぼくのひざとぶつかり、彼女の太ももが、ぼくの太ももに重なってひざを開かれていくのに抵抗しながら、再び舌を突っ込まれた後輩の口は、羞恥心の嗚咽を咽喉の奥から何度も発しながら、欲情の快感に自ら抵抗しているように脚を震わせていた。そして、彼女がついに欲望の限界に耐えられず、必死に閉じていた股の筋肉を緩め、脚を開いて便所の床に自ら丸出しにした腰を落とそうとしたとき、ぼくの性器が彼女の性器に接触した。そのとき二人は我慢できずに、狭い和式トイレの中で、お互いに裸の下半身をよじらせながら、柔らかく湿った穴の中に、ベトベトになって充血しているペニスを挿入させようとしてもがいた。
 お互いの性器が接触し合い、亀頭の先がめぐみのやわらかい粘膜に包まれたとき、急に快感が突き上げてきて、ずっと射精を我慢していた精子が一気に限界に達して勢いよく尿道の先から噴き出してきた。慌てて引き抜いた男根は、何度もビクビク痙攣しながら、先端の小さい穴から、ベトベトの精子をあたり一面に飛び散らせた。女子高生は目をぎゅっとつぶったまま赤面し、精液に濡れた太ももを開いたまま、弱弱しく壁にもたれた。
 ぼくは急いでトイレットペーパーを引きちぎって彼女の濡れた太ももを拭いた。そして、またトイレットペーパーパーを引っ張り出して、精子を吐き出しているペニスの口を塞いだ。
 紙の中でまだドクドク脈動しているピンク色の亀頭が、まだドロドロと熱い精子を気持ちよく吐き出しながら、トイレットペーパーを透明に濡らした。
 そのとき彼女は目を開けて、ペニスを握っていたベトベトの手でぼくに抱きついてきて言った。
「ああ、好き」
 でも、ぼくは咄嗟に唇に人差し指を当てて彼女を黙らせ、巻かれた紙をもう一度引きちぎって、ドロドロになった後輩の手を拭い、丸めて彼女の足元の便器に捨てた。
 銀色の涙の形をしたレバーを足下で踏みつけると、水が轟々と音をたてて流れ、紙と一緒に下水溝の穴の中に吸い込まれていった。
ぼくはジーンズを上げ、ジッパーの中に性器を押し込んでチャックを閉めた。
 後輩は、復讐するような潤んだ目でぼくを見つめ、首筋から汗をダラダラと滴らせて突っ立っている。
 一瞬、目尻からボロッと涙が零れ落ちた。
 半裸にされたまま、全身に汗をかいている後輩は、外れたブラジャーで胸を押さえながら言った。
「せんぱい。誰にも言わないでくださいね」
 ぼくがいったい誰に何を言うというのだろう。ただ自分の性器が精子を飛び散らせただけだ。彼女もそれを望んでいたはずだ。そして、これから自分は、ここから出て行くだけだ。誰も、ぼくと彼女の関係を知る者はいない。ぼくがマリアと別れたように、彼女とも、もう二度と会うことはないだろう。そう思いながらぼくは、尻のポケットに入れたはずの封筒を手で触って確かめた。封筒があることを確認すると、便所の鍵を開けた。
「せんぱい。もう行っちゃうんですか・・」
 自分はどこにも行きはしない。ただ、これから、隷属すべき規範に戻り、従順さを演じるだけだ。
 ぼくは、小さな声で「ごめんね、またね」と彼女に言った。
 後輩はパンティをたくし上げ、潤んだ目でぼくを見ながら、育ちがいい家庭で教育されたのだろう、律儀に目を伏せてお辞儀をした。
 彼女をパーティションの中に残したまま、ぼくは洗面台の所へ行き、蛇口を捻った。勢いよく流れる水で、ベトベトしている手を洗った。
 そのとき、彼女が口ずさむ歌が便所の中に小さく響いてきた。
「あーああ、あああーあ」
 何を歌っているのかわからない。どうして彼女が歌い始めたのかもわからない。ただ、その歌声を聴いていると、いつかずっと昔、どこかで聞いたことのあるような懐かしさを感じた。それは、なぜか、小さい頃、母親が歌ってくれた子守唄に似ているような気がした。
 中学のとき、めぐみがぼくに編んでくれた毛糸の手袋。それはアイロンで真っ黒にこげていた。それを思うと、なぜかいたたまれない気持ちがしてきて、胸が痛くなった。
 洗面台の上の鏡を見ると、そこにはぼくの真っ黒な瞳が映っていた。でも、そこにあった顔は、今まで一度も見たこともないような、他人のような顔に見えた。(自分の顔を、他人のように見つめている自分がそこにいた。)
 ぼくは慎重に、誰にも気付かれないように、男子便所から外に出た。
 Gパンのポケットに両手を突っ込み、小走りで廊下を走りながら、徐々にスピードを上げ、冷静に、しかも素早く学校から外に走り抜けた。

 空の下に出ると、陽は既に傾いていた。
 全速力で走ったので、脚がガクガクして、下腹部に痛みを感じた。
 息も切れてノドがカラカラになり窒息しそうだった。

 もうここまで来れば大丈夫だろう。そう思って立ち止まると、全身から汗が噴き出してきた。
 ゼーゼーいいながら、唾を飲み込んで一息つくと、先生から渡された封筒の中身を確かめようと思いついた。
 封筒を開けると、そこには札が一枚だけ入っていた。
 よく見るとそれは千円札だった。
 こんなはずはないと思った。
 なにかの間違いだ。そうでなければいったい今までぼくがしたことは何だったのか。
 侮辱されているように感じた。
 道路に唾を吐いた。
 もう一度中身を確かめようと思い、封筒の中を覗いた。
 するとそこに、小さなメモ紙が入っているのを発見した。
 綺麗に二つに折り畳まれた紙を開くと、そこには小さな字で丁寧に、住所と電話番号が書いてあった。
 ぼくは、先生の意図的な悪意を感じた。きっと先生は知っていてわざとそうしたのだ。
 ぼくは千円札を握り締め、ゆっくりと歩き始めた。


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posted by hoshius at 05:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 狂犬革命 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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